うつ病状
もし人間に悲しみも苦しみもなかったら、喜びも幸せもないかもしれません。
どんな悲しみの中にあっても、真っ暗な夜がいつかは必ず明けるように、 いつかは気持ちは晴れ、
新しい朝が訪れるものです。
過去の悲しみや苦しみが、 一種の懐かしさとともに思い出されることもあるでしょう。
ところが、うつ病の人が経験する暗い気持ちには、光が差すことがありません。
夜は永遠に続くのです。励ましやなぐさめは空々しく感じられ、 逆に絶望感を募らせるばかりです。
うつ病の悲しみはふつうとは質の違うものです。
【うつ病の症状】
基本的に[1]うつ気分、[2]生命活力の減退による意欲・行動の障害、[3]悲観的な思考障害、
[4]種々の身体症状の4つの症状群に分けることができます。
また、その他の特徴として日内変動、季節変動が知られています。
1)うつ気分
[1]はっきりとした原因がなく、[2]深いうつに陥ってなかなか抜けだせないことが病的なうつ状態と
されています。うつ気分には、憂うつ感、悲哀感、興味や喜びの感情の喪失などがあります。
2)意欲・行動の障害
何をするにもおっくう、意欲の低下、集中力の低下、決断力の低下、性欲の低下、行動の遅滞など
生命エネルギーの減退による意欲・行動の障害が現れます。
3)思考障害
考えが進まない、まとまらないなどの思考の抑制や自分、社会、将来に対しての悲観的な考え方が
多くなります。
4)身体症状
よくみられる身体症状としては、全身のだるさ、食欲不振、不眠、頭痛、肩こり、めまい感、性欲減退、
耳鳴り、口の渇き、胸部圧迫感、みぞおちの不快感、吐きけ、腹痛、便通異常、腰痛、手足のしびれなど
が現れます。
5)日内変動、季節変動
うつ病では、しばしば朝方調子が悪く、夕方には元気がでてくるという日内変動を示すことがあります。
また、うつ病には周期性変動のあることが知られており、1年~数年の周期で反復したり、季節的に春
と秋に悪くなるケースが多いとされています。また、明らかな「躁」と「うつ」の周期を繰り返すものは
「躁うつ病」と呼ばれています。
うつ病
中医学(漢方)の「うつ証」は西洋医学の「うつ病」に比べ範囲が広く、自律神経失調症、心身症、神経症、神経衰弱、更年期障害、不眠症、認知症など多くの病症を含みます。さらに、別の疾患に伴う「うつ症状」にも適用することができます。
ここではうつ証を4つのパターンに分けて説明します。
【1.肝気鬱結 かんきうっけつ】
中医学では「肝」は春の樹木のようにのびのびと身体の中で働くことを好むとされています。気というエネルギーを身体にバランスよく巡らせ、ストレスや老廃物が溜まらないようにする働きがあります。しかし、過度な怒りやストレス、抑うつ気分などの精神的な要素によって「肝」の機能が失調をおこすと、気が巡らずに滞り、【肝気鬱結】となります。鬱(うつ)は、中医学では何かが滞った状態を言います。
また、「肝」は血の貯蔵も行っているので、「肝」の機能が失調すると、血の運行にも影響を与えることがあります。(女性であれば月経に影響することもあります)
〈症状〉
ゆううつ感、情緒不安定、ため息、胸やわき腹が脹る、食欲がない、お腹が脹る、げっぷ、口が渇く、口が苦い、偏頭痛、月経不順 など
〈漢方薬〉
加味逍遥散、逍遥丸、四逆散 など
肝の機能を高め、気の巡りを良くするお薬で、鬱(うつ)の状態を解消します。
【2.気滞痰鬱 きたいたんうつ】
これは1の【肝気鬱結】から少し進んだ状態です。気(エネルギー)がうまく巡らないために、消化器(脾胃)の機能が影響を受け、食べ物をうまく消化できずに、ドロドロで汚い痰(たん)という物質を作ってしまった状態です。また、気の巡りが悪いために体中の老廃物が痰になってしまうこともあります。
〈症状〉
憂鬱、情緒不安定、ため息、食欲不振、お腹の張りなど1の【肝気鬱結】の症状の他、
胸が苦しい、胸がつまる感覚、タンが多い、のどに何かがつまっている感覚、吐き気 など
〈漢方薬〉
半夏厚朴湯、柴朴湯、竹筎温胆湯 など
痰をとりのぞき、気を巡らせることで症状を改善します。
【3.心脾両虚 しんぴりょうきょ】
これは1の【肝鬱気滞】や2の【気滞痰鬱】があり、さらに時間が経過した状態です。気の巡りが滞り、消化器(脾胃)の機能失調を招き、さらにそれが長引くことで、食べ物から作られていた気(エネルギー)や血が不足します。
中医学の「心(しん)」は”心臓”の役割とともに、精神活動(こころ)を中心的に担っている臓とされています。「心」の働きが正常に行われるためには血が不可欠とされ、不足すると精神的な症状が悪化します。消化器(脾胃)の機能失調から血の不足となり、「心」に影響をおよぼした状態が【心脾両虚】です。
〈症状〉
動悸、不安感、不眠、夢が多い、物忘れ、めまい、疲れやすい、だるい、顔色が白っぽい(血色がない)食欲不振 など
他に1や2の症状があることもあります。
〈漢方薬〉
甘麦大棗湯、酸棗仁湯、帰脾湯、桂枝加竜骨牡蠣湯、柴胡加竜骨牡蠣湯 など
消化器機能を元気づけ、気血を増やすことで心の機能を回復します。
【4.陰虚火旺 いんきょかおう】
これは1の【肝鬱気滞】や2【気滞痰鬱】があり、さらに時間が経過した状態です。3の【心脾両虚】と似ていますが、血の不足が「肝」に影響している点が異なります。
中医学の「肝」は血を貯蔵を行っているので、血の不足は「肝」の機能に影響を与えます。また、日本でも「肝腎要」と言われるように、「肝」は「腎」と関係が深く、「肝」の機能失調は「腎」の機能にも影響します。
「腎」は生命の源である水を調節する臓です。肝と腎の機能失調は身体の血と水の不足を招きます。(その状態を陰虚(いんきょ)といいます)
また「腎」は中医学では「骨」や「生命」、「生殖」と関係がある臓とされており、腎に影響が及ぶと腰痛や遺精といった症状もみられることがあります。また、【陰虚火旺】タイプのうつ証は老人に多くみられます。
〈症状〉
めまい、耳鳴り、寝汗、動悸、不眠、遺精、腰痛、胸がモヤモヤする、胸に違和感がある、のぼせ、生理不順 など
また、1~3の症状が現れることもあります。
〈漢方薬〉
六味地黄丸+加味逍遥散、天王補心丹 など
「腎」を補う薬で、体の水分不足を解消しつつ、気を巡らせてうつ証を治療します。
これらはほんの一例です。他にもたくさんの処方があり、使うお薬はその方の体質に合わせて選びます。メール相談をご希望の方は問診表にお入りください